『周波数領域歌唱調音接続法研究部』
(Frequency-domain Singing Articulation Splicing and Shaping Club)
 ー部外者ノ立入リヲ禁ズー

 言われたとおり月曜の放課後に旧視聴覚室の前に来ると、扉にはそんなパネルが貼ってあった。旧視聴覚室は昨年建て替えられた校舎に新しいのがあるので今は使われていない教室だった。

「周波数領域歌唱調音接続法研究部?なんだソリャ」
「いーから入る、入るぅ~」
 奏はもちろんのごとくパネルの文字など読んでいなかった。読んだところで理解はできないのだろうけど……
「や、でも部外者立ち入り禁止ってなってるじゃんか」
「え?タクくん部外者なの?ウチは部内者ーだから入るぅ~!んじゃねえー」
「んじゃねえーじゃねーし!よくわからないけどボクも入るよ!」

 部屋に入ると、中にはすでに華音さんがいた。カーテンは閉められていて薄暗い室内の机の上にノートパソコンと幾つかのソフトウェアのパッケージが並べて置いてある。

「あ、VOCALOIDだね」

 実際、ボクはVOCALOIDに興味はあったケド、それを買う資金が無かった。いや、VOCALOIDだけならなんとかなるのだろうけど、曲を作るとなると、他にも打ち込み用のソフトがいるのだ。それが高くてボクには手が出せないでいた。

「これって……華音さんの?」
「ん?まあ、ワタシが買って周波数領域歌唱調音接続法研究部に寄贈したのよ」
「ああ~…………で、周波数領域歌唱調音接続法研究部って……何?」
「あら、周波数領域歌唱調音接続法を知らないの?ボーカロイドの音声合成技術のことよ。ココはそれを研究する部活ってこと。ま、ボカロ部って登録しようとしたらダメって言われたからこんな名前にしたんだけどね」
「へえ~華音さんって物知りなんだねえ……じゃなくて、ボカロ部?」
「そうそう。手狭な貴方の家でやるより学校のほうが何かと都合がいいでしょう?ここなら人目につかないし」
「は、はあ……まあ……」

 コツン コツン

 VOCALOIDにまったく興味が無いのか、奏はいつの間にか部屋の奥にいた。そこには奇妙な人形?が座っていた。学ラン姿にヘルメットのような仮面を被っている人形だ。

「ボカロ部だからこんなロボットみたいなの飾ってるのね!」

 その頭を奏が叩いたのだ。

「あ、奏チャンダメよ。ヒトの頭を叩いたりしちゃ」
「へ?ヒト?」
「ちょうどいいわ。ボカロ部の部員紹介をしましょう。部長はもちろん私、蒼井華音。で、部員が奏チャンと拓人くんと……そのトーマくんの四名よ」
「え?」
 ボクと奏は顔を見合わせた。人形だと思ってたのが部員だというのだからだ。
「部を立ち上げるのには四名必要だって言うからね。口が硬そうな彼に協力してもらったのよ」
 ボクは華音さんのその言葉で、コレはダミー人形なんだと思った。四名いるように見せかけるための……だから、それ以上トーマくんのことをツッコむのはやめておいた。

「うひょー トーマくん?トーマくんって言うんだぁ。カックイーーーっ!」
 しかし、奏は物珍しそうに仮面の中をのぞき込んだり、勝手に肩を組んで写真を撮ったりしていた。
「奏……」
「ナニナニ?ナニなの?」
「いや、その人はさ、そっとしておいてあげなよ。ほら、なんか考え事してるみたいだし」
「え?トーマくん、そ~なの?」

「ハ……イ」

 するとなんと、そのトーマくんは返事をした。
 が、それはかなりベタなロボットボイスだった。

「あー、その子変わってるからさ、基本的に放置しておいてあげて。何だっけ……たしかダフト・パンクっていうグループのファンなんだってさ。っても、それ、なんだか知らないんだけどねぇワタシ」
「なるほど……」
 ダフト・パンクって……たしかお面を被った二人組のエレクトロユニットだ。なるほど、そういう設定なんだなトーマくん。しかし、華音さんって凝り性だ。

「で?いつ出来る?明日?」
「へ?ナニが?」
「曲よ!」
 華音さんはカタカタとカカトを鳴らしながら言った。
「そ、そんなスグには無理だよ」
「じゃ、いつなら出来るの?発表は今月の末なのよ?」
「え!そ!そんなに時間が無いの?」
「そーよ!」

 どうやら華音さんというのが強引な性格だ、ということは分かってきた。






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