「それで?誰から発表するんだ?」

 あっという間に水曜日が来た。なぜか嬉しそうな北田先生がノリノリで聞いてきた。でもボクも奏も黙っていると、イライラしたように華音さんがノートを机の上に叩きつけた。
「先でも後でも一緒じゃないの!私からでイイわね?」
「ハイ……」
 ノートをめくると、そこには綺麗な字で清書された歌詞があった。
「イッツミー?」
「そうよ」
「良いタイトルだね」
「ハイハイ。ゴタクはいいから、とっとと読みなさい」
 ボクと奏は顔を突き合わせて華音さんの書いた歌詞を読んだ。先生は後ろからそれをのぞきこんている。


 イッツミー!

 はじめて君に会った時に聞いたその声に私の心臓はドキドキしたの
 それなのにいつの間にか一緒に並んで歩いているのね
 あぁ、ずっとこうして歩いて行くのね
 アンタ、分かってるでしょ?
 ホント大好きよ!たぶんね
 だから好きだと言いなさい
 アンタ、分かってるんでしょうね?
 それは私
 心変りなんて許さない
 ただ私だけを見てればいいのよ
 世界はただ私の回りを回るだけ


「…………」

 読み終わるとボクと奏は顔を見合わせた。正直に言うと、華音さんはまともに書いて来ないと思ってた。けど、たぶん真剣に書いてきたんだと思う。だって、真新しいノートなのに何ページも破いた跡があった。きっと何度も書き直したんだろう。それでも……
「ええと……いい歌詞だと思うケド……」
 立場上何か言わないとと思ったのか北田先生がまず口を開いた。
「でしょ?でしょ?やっぱ私って天才!」
 華音さんは顔を崩して笑った。それでも……
「ええと……コンセプトってなんでしたっけ?」
 思わずボクも尋ねた。
「ピュアな少女の片思い!」
 ですよね……うんうん……
「……そう……ち、ちなみに……華音くんって片思いしたことあんの?」
「バ バカね!あるわよ!ありますよ先生!片思いの100や200は!もうバレンタインなんて、業界関係者や各界の御曹司やらなにやらにバンバンなんだかんね!チョコの配達」
「それは義理チョコじゃ……ま、いいか。んじゃ奏くんは?」
 北田先生ってなんか頼りない感じだったけど、進行役としては居てくれて助かった。
「ウ、ウチのなんて……華音さんのでいいんじゃない?」
「そうはいかないだろ?みんなで作るって約束じゃないか。それに書いてきたんだろう?それ」
「う……うん……」
 奏はグシャグシャの紙切れを握りしめていた。
「奏ーっ!オマエのはそれ?裏紙?」
「何でもいいっしょよ!さっ!煮るなり焼くなり好きにして!」
 華音の真似なのか、奏も机の上にバンッと紙切れを叩きつけた。
「奏くんのは『いつも見てるの』か。たしかに片思いっぽいな」
「ウンチクは良いから早く読みなさいなーっ」
 なんだ?奏、華音さんを意識してるのか?とも思ったケド、奏ってどんな文章を書くんだろ?なんてちょっと興味はあった。何気にすごい文才があったり………は、しないと思うけど。


 いつも見てるの

 見ているの
 私、いつもの角で
 いつもの壁で
 いつものドアの隙間から
 いつも
 見ているの
 私、見ているの
 だからふりむかないで
 こっちを見ないでよね
 あなたが好きあなたが好きあなたが好きあなたが好き
 あなたが好きあなたが好きあなたが好きあなたが好き
 あなたの後ろ姿が
 本当に好きよ
 だからいつも見ているの
 あなたの後ろ姿を
 いつもいつもいつもいつもいつも


「ええと……コレ……」
 思わず背筋がぞぞぞっとして、奏を見ると、奏はスグにそっぽを向いた。
「違う違う違うんだからね!創作よ、創作!経験談だとか、実際待機する角があるとか、そんなことはないんだからね!」

 その日から、拓人はたびたび背中に視線を感じるようになったという。そしてなぜ昔からいつも突然ちょうどいいタイミングで奏が現れるか?の謎が解けた気がしたという。

「フッ 勝ったわね。奏ちゃん、貴方の負けよ」
「うぎょ~~~~ん でへへへへぇ~ 負けちった~」

「華音さん、これは勝ち負けじゃないよ。それに奏も言われて悲しいんだか嬉しいんだかハッキリしてくれよ」
 正直、これは絶対に言えないけど、ふたりの歌詞は五十歩百歩だと思う。
「うーん、そうだなあ、ふたつをくっつけて人称だとか『てにをは』だとか整理すればイケる……のかなあ」
「先生、『てにをは』ってなんです?」
「ん?ああ、それを調べるのが君たちの部活動なんじゃないのかい?ボカあ国語の先生じゃないんだしさ!」
 ……知らないで言ってみただけか?何を考えているのか、北田先生の言うコトはなかなか読めない。



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