その日、帰るとボクはすぐさま作業にとりかかった。なぜだか、いや、いつもどおりに奏はボクの部屋でたむろしている。

「できそうなの?」
「ん、ああ~たぶん……頑張るしかないし」
「ふーん……でもタクくんならできるよ!毎回毎回、何でもなんとなくそれなりに出来るんだからさ」
「なんだその根拠のない励ましは。でもさ、どっちの曲の方が良いとか悪いとか言ってもらえたらよかったんだけどなあ。奏はどっちの方が良いと思う?」
「ドッチでもイイけど~~~ウチは~やっぱ明るい曲が好き!」
「ドッチでもイイってオマエ……でも、分った。そっちでやってみるよ」
「そーそーその調子だぜい!それはそーと、お茶無いんだけど?」
「…………帰れ!」
 と、言ったところで奏は帰るはずもなく、漫画を読んたり菓子を食べたり、いつもどおりにしていた。その様子を背中に感じながら、ボクはノートPCを立ち上げた。

「……とりあえずBPMはもうちょい速めで……って、いくつくらいなんだろう?130くらい?でいいかな」
「なになに?BPMって!バスト・パーセント・マックス?む、胸の最大比率?」
 すると奏が飛びついてきた。
「……違うよ!ビート・パー・ミニット、曲の早さの数値だよ!なんだよ胸の最大比率って」
「え?ウチのバストサイズ?」
「Bだろ!って、そんなん聞いてねーし!」
「BじゃないもんDだもん」
「………嘘つけ」
 俺は一度奏の胸を見て頷いた。
「あーーーーママたーーーん、タクくんがイジメるんです~~~~」
「お、おいやめろ!わかった、わかった!じゃ間をとってCな、C!」
「しょうがないわね、それで手打ちにしましょう」
「って何の話だ!てか、手打ちってなんだ?うどんか?そばか?いやいや、お前は何しに来た?邪魔しに来たのか?」
 どうも奏と話すと話が変な方向にいってしまう……

「んで、ドラムとベースって言ってたな先生」
 ボクは気を取り直して作業をすすめた。
「ドラムって言うと……あった、あった、このプラグインで……あ、なんかサンプルの太鼓って反映させられるんだ、へえ~、これはイイなあ。MIDIトラックにドラッグして……と……おお~~自己満足~~~」
 ドラムのループを貼り付けるだけで、かなーーーり音楽っぽくなるのには驚いた。
「自分で打ち込まなくちゃなのかもだけど、まあ、時間優先ってことで!」
 その後、文字通りベースラインを並べると、いわゆるリズム隊が入ったので、とりあえず曲っぽくはなった。
「あとはピアノか……とりあえずコードを押さえれば……いいよな。ピアノのコードって……ま、適当にルートと三音いれとけばいいか、Cならドミソ~っと」

「おーさすがオタクソング部だねえ~~~ウチが見込んだだけのことはあるし」
 また奏が覗きこんできた。
「うるさいな~なんだよオタクソング部って、フォークソング部だろ」
「だって『ひとりぼっちで陰鬱にギターを弾きながらブツブツいう部』なんでしょ?」
「ウルサイ!部員がいないから一人でやっただけだし、ブツブツ言ってるんじゃなくて、緊張して声が出なかっただけなんだよ!」

 そう、ボクは音楽は好きだけど人付き合いが苦手で軽音楽部にもいけない、一人で歌うにも極度の上がり症で去年の文化祭の発表で大失敗した。そんな苦い記憶に土足であがりこんで傷口に塩をぬりつけるのが奏だった。

「でも、ボーカロイドなら、自分で歌うんじゃないもんな」
「そね。タクくんの歌声は聞くに耐えかねないもんね」
「オ……オマエは、なんだ?応援しに来てるのか?それとも悪口を言いに来てるのか?え?どーなんだ!ハッキリしろ!」
「キャーッ エッチ~~~ 襲われる~~~~」
「…………さあ、作業するかなあ」
 奏に付き合ってたら進まないので、無視することにした。

「そーいえば俺まだVOCALOIDのソフト触ってないや。
 なになに……ええと……MIDIデータを読み込んで……と
 とりあえず再生?あ、エラーだ……
 なになにい~?
 『いくつかの音符が重なっています。』
 ……ええと……なんだろう?って下になんか書いてあるな
 『[音符のノーマライズ]を実行してください。』か……
 で、再生っと……
 お、おお!奏~~~~!」

 ふりむけば奏はいなかった。外を見れば窓の外はすっかり暗くなっていた。DAWソフトと説明書と参考サイトにのめり込んでいるうちに、いつの間にか奏は帰ってしまったようで、置き手紙があった。

『タクくん信じてる!がんばってねー』
「置き手紙なんてめずらしいな」

 と、思うのもつかの間、またボクの頭は曲作りの方へと向かっていった。最初はなんだかミクが『あああ~』って歌ってくれるだけで感動したけど、そーいやなんか先生が言ってたな……て、適当に歌詞をミックスしろとか……適当とか無理ゲーじゃね?なんであのとき、気づかなかったかなあ……と、言ってもいまさらか……

 と、とりあえず華音さんの歌詞はと……

 はじめて会って、声にドキドキして……いつの間にか一緒に並んで歩いて、好きだって言いなさいで、世界は自分のまわりを回るのか……
 華音さんらしいっちゃそうだけど……

 で、奏のは……

 見てる、見てる、見てる……か
 見てるんだな……ずっと、ずっと、ずっと

「ハッ!」

 ボクはまた背筋に寒いものを感じてふり返ってしまった。が、奏の姿はなかった。

 ストーカーっぽいけど……でも、コレって本当に好きって……いうことなのかなあ?…………
 ま、まあやってみるしかないな。ええと……歌詞を入力するには……右クリックで……と……

 そんなこんなで、なんとなく歌詞を入れてゆくと、なんだか、別になにも調整とかしないでもそれっぽく歌ってくれるVOCALOIDというソフトにまた驚きながら、夜が更けていった。
 思えばこれがボクとVOCALOIDとの初めての出会いだった……


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