それから一週間がなんとなく過ぎていった。ボクは、部室である旧視聴覚室には寄らないでひとりで帰った。何をしているのか、奏はなんだかひとりで部室に行っているようだったが、いつかうちに遊びに来るときに聞けば良いと思っていた。しかし、奏は一度も来なかった。
 結局、心配になったボクは部室に行ってみることにした。言っておくけど心配なのは置きっぱなしにしたノートPCと、トーマくんのことだ。

「え?」

 実のところ、奏は相当落ち込んでるんじゃないか?と思っていた。だから励ましてやろう、くらいの気持ちだった。しかし……

 うちょーーー!
 なんでこーなる?
 いや、ならないかねーーーー
 んっもう!

 そこでは仮面のセーラー服少女がパソコンを叩きながら踊り狂っていた。

「か、奏?」
 まあ、まず、間違いなくそれは奏だ。
「おお~~~やっと来たかね、タクくん」
 ボクのことに気づいた奏は狂い踊りをやめコッチを見た……仮面のまま。
「いや、そうじゃなく、なに『踊ってみました』してるんだよ!」
「うにょ?だってここはボカロ……」
「そうだろ!」
「踊ってみました部でしょ?」
「っがーーーうっつーーーの!」
「だって、みんな来なくなっちゃったから……しょーがないじゃない」

 仮面をしているから伝わらないとでも思っているのか、奏は背中を丸め、両腕を前にダラーんとたらし、全身で『私は落ち込んでんるんだゾ』アピールのポーズをした。
 が、奏よ、それは逆に滑稽だぞ?しかし……
「そ、それは……ゴメン」
 とりあえずボクは謝った。たしかに、何も言わずに投げ出したのはボクの方だったから。

「でも、だいたいなんだよこの曲……というかリズムだけみたいなの」
 すると奏はUSBメモリをどこかのご隠居さんの印籠のように突き出してみせた。
「だからなんだよそれ」

「ゆーーーえすびーーーーーーメモリーズ!……ズ……ズズズ……」

 奏は何かの変身ポーズのような動きをして叫んだ。しかもエコー付きで。

「USBメモリだろ。んなことは分かってんだよ。それがどうした?って聞いてんの!」
「へ?タクくんのじゃないの?」
「知らないよ、そんなの。どこにあったの?」

 きけば、ここに置いてあったのだという。トーマくんの横に。それを何とか取り込んで曲にしようと四苦八苦してたというのだ。

「じゃ、踊ってたわけじゃないの?」
 コクン、と奏は大きく頷いた。
「きょ、曲が完成したら……また、みんな戻ってくるかな~と思ってさ」
「か、奏……オマエ……」

……放課後の教室、傾きはじめたオレンジの太陽に照らされ、向き合う二人の影はひとつに重なり合った……

 コツン コツン

「おーい!ひとりナレーションで盛り上がってるところ悪いんだけど、奏、自分の格好分かってる?オマエ今、仮面少女だよ?少女漫画のヒロインじゃないよ?」
「ハッ!迂闊!そうだった!」
「気づいてくれたか。ヨカッタヨカッタ」
 と、思うや奏は奥へとダッシュして何かを取って戻ってきた。
「ハイこれ!」
「ハイ?」
 奏の差し出したのは仮面だった……トーマくんの……
「あ…え?……は?……あれ?トーマくんは?」
「いないの……トーマくんも消えちゃったの……お面を残して……だから……」
 華音さん……いち早く撤収したのかなあ……

 ガツンッ

「イタイイタイイタイ!な、何するんだよ!」
 華音さんのことを思い出していると、奏は俺にトーマくんの面を被せてきた。

 ス~~~ッポン

「おお~~~似合う似合うわ~~~ピッタシ!」
 お面がはまった。そして……と、取れない
「ピッタシジャナイヨ」
 ってあれ?声が変?
「ナンダコレ カナデ コエガ ヘンダロ」
 声が、ロボットボイスになっている?
「うひょーすげーっす~~~!やっぱ本物すげー」
 奏はなぜか喜んでいるが、どうやらこのマスク、ヴォイスチェンジ機能かなにかがついてるってこと?いったいなんでだろう?し、しかし外れない、外れないぞコレ。
「これでユニット組めるね!タクくん!ユニット名考えなくちゃ!」
「………………」

 絶対外す!

 心の中で叫んで死に物狂いで引っ張ると、なんとかやっとマスクは外れた。
「はぁ はぁ はぁ ヒドイ目にあった。ユニットったって、コレ、トーマくんのモノだろ?勝手に使っちゃダメじゃないか!」
「ぐ ぬぅ~~~」
 奏にはこの言い方が一番だ。
「でも、いいよ。分った。その曲仕上げようぜ。ボカロ部でさ」





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