「んーーーーーーぐぐぐぐぅー」
「どうしたんだよ?奏、気持ち悪いカッコして」

 あくる日の放課後、部室でボクがパソコンを開いていると奏が仮面をつけたまま鏡の前でいろんな変なポーズをしていた。今日も華音さんも、トーマくんも居ない。北田先生は一度顔を見せたがスグに帰ってしまった。

「んー、ダフトは愚かなって意味らしいから……」
「おーい、聞こえてんのか?ねーのか?」
「愚か者、と言えば……タクくんだもんねえ……」
「ちっ 聞いてねーのか」
 奏は変な動きをしながらブツブツつぶやいている。
「お! キタキタキタキターっ!タクトパンクでいっか!ユニット名」
「おい。やめとけ、てか、絶対にやめろ!」
「タクト~パン食う?なんちてー」
「フ ザ ケ ル ナーーー!」
「だって~全然できないんだもん曲、~元があるってのにー」
「グッ」

 そう、ボクは得体のしれないUSBメモリに入ってたという曲の伴奏を付けているのだった。

「だ、だってしょうがないじゃないか、ダンスだかエレクトロだか、知らないジャンルだし、なんかメロディがあるようなないような曲だし」
 それに……
「それにしてもコレ誰の曲なんだろう?華音さんかなあ」
「だからトーマくんのだって言ってるっしょよ!」
「ハイハイ、分かりましたよ」
 奏じゃないとしたら、やっぱ華音さんってコトだろう。とするとこの曲を仕上げるコトが華音さんの希望なのかも知れない。そう思ってボクも慣れないジャンルにチャレンジしていた。あのままで終わりってのも……寂しすぎるし、カナちゃんの件も思い出せていないのだから。

「んなことより、歌はどうするんだ?歌詞は」
「それはウチにまっかせなさーい!」
「ひとつの言葉の繰り返しじゃないんだろうな?」
「ち、ちがうんだから!あったりまえでしょ!」
 怪しいもんだが、歌詞を考えないですむのはありがたい。
「だいたいコレ一つの曲なのかなあ??つなげちゃっていいのかなあ~?重ねればいい?」
 と、人の作った部品から曲を組み上げる、という慣れない作業に四苦八苦していると、すっかり日が暮れてしまった。
「今日はウチがコレ持って帰るからね!見てらっしゃい!勝負よ!」
 帰りがけにパソコンを奏に奪われた。
 自分でやる!ということらしかった………

 が……

「で?なんでうちに来てるのかな?奏くん」

 奏はその日のうちにうちにノートPCを持って現れた。

「やーほら急がば回れ!っていうじゃない」
「なんだ、ボクが迂回路みたいなその言い草は!だったら来んな!そして夜なんだから、もうドタバタすんな!しかもうちで仮面を被るな!」
「まーまー、トロンさんよ、早くボカロの画面まで持っていっておくれ。後はウチがやるからさ」
「なんだ?トロンって!」
「ユニット名」
「は?」
「ウチが『にゃあ』でタクくんが『トロン』。ふたり合わせて『にゃあトロン』!キターーーッ!」
「…………どっから来たんだ?それは」
「えへへへへーーー まず、エレクトロンでしょ?、んでもってトロンになるでしょう、んでニトロン、ニュートロン、で!にゃあトロン!」
「最後、魔変換してねーか?ま、どーでもイイけどな」
「え!いいんだ?トロンで!もしくはトロ!はたまた大トロ!」
「大トロじゃねーよ!ホレ、あとは煮るなり焼くなりだろ?」
 ボクは歌のパートと思われる部分をMIDIにして、VOCALOIDに取り込むと、ノートPCごと奏に渡した。
「うし!サンキュー!んじゃ帰るね!」
「お、おう……でも……」
 この時、何を言おうとしたのか?自分でもハッキリと分かってはいなかった。
 でも……
「大丈夫よ。カナは……華音タンは……戻ってくるよ」
 奏の言葉に頷いた。
「ああ、そうだな」


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