「んでさーカナちゃんって誰だっけ?」

 ボクは、やはりどうしてもハッキリと思い出せなくて、またうちに出入りするようになった奏に聞いた。

「なに?まだ思い出してなかったの?」
「うん……なんとなくしか……」
「コレよ」
 奏は昔の写真を持ってきた。そこには男女二人ずつ、四人の子供が写っている。ボクと時田と奏と…………
「これがカナちゃん?」
 ひとりのおとなしそうな少女をボクは指さした。確かに記憶にある顔だ。
「はあ?タクくん、ホントどーしたの?頭かなんか強打したことあったっけ?」
「な、なんだよそれは!ボクは思い出したんだよ!この子がカナちゃんだろ!おとなしくてカワイイ子!」
 そこには、男勝りに泥だらけで笑う少女と静かに微笑む少女の姿があった。
「あら、ありがとう」
「な、なんだよ」
「それ、ウチだよ?」
「え?」
 ボクは驚いて二度聞き返してしまった。おとなしそうに見えるほうが奏だと言うのだ。そして、よく言えばボーイッシュ、悪く言えば悪ガキ風の方がカナちゃん、つまりは華音さんだと言うのだ。
「う、嘘だろ?おい、どー見てもコレ奏じゃないか!この小汚い感じ」
「ハイハイ、そうですかー。なんて言おうとコレがウチで、コレが華音タン。みんな変わったのよ。みんなね。時田も進学校に行ってスッカリ変わっちゃったしさ」
「あ、ああそ~いえば、そうだなあ……でも、カナちゃんって……」
「引っ越したでしょ。夏休みに」

「あっ ……………」

 ボクは思い出した。あれは確か小学2年か3年の夏休み。気がつけばカナちゃんは消えていて、後で転校したって知ったんだ。
「思い出したみたいね。まったくあんなに好きだ、好きだってウザいくらい言ってたのに薄情なんだから」
 そ、そうだ。ボクはカナちゃんが好きだった。
「や、いや、違うだろ。そ、それはカナちゃんが、ボクにだけ黙って消えたんじゃないか!時田も奏も知ってたんだろ?なのに、俺だけ知らなくて……そうだ、そうだよ!思い出したよ!夏休みに、博物館いっしょに行くって約束までしたのに、からかわれたんだと……そう、思ったんじゃないか!だから、だから忘れようって決めたんだ。そうだ、そうだよ!」
「そう?じゃ忘れちゃいなよ。このままさ。あの後の、カナちゃんが引越した後の時みたいになったら困るもん。アンタ、なんか抜け殻みたいでさ」
 なぜか奏は泣き出してしまった。
「え、えっと……」
 ボクは、その時どんなだったのか?思い出せなかった。
「そんなに、ヒドかったの?」
「も、もういいからさ、あんな気持ち、もうイヤだからさ。いいじゃん。カナちゃんのことはさ。あれは、もう華音さん。カナちゃんなんかじゃなくね。ね?」
「あ、ああ。そうだな」
 いつになく真剣な奏の顔に、ボクはもうそれ以上何も言うことができなかった。

 それにしても……二人ともすっかり変わっちゃったんだなあ。まるでそれぞれ入れ替わったみたいじゃないか……


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