「……なんかゴメン。ありがとう」
「ううん……私のためでしょ?アイツらにからんだの」
「ん、ああ……聞いてたの?」
「うん……」

 帰り道にはしばらく、沈黙がふたりの間をつつんだ。吐く息の白が、歩くふたりに絡まり、まとわりながら、薄れ、消えてゆく。ボクは遥か前を見ているようで見ていなかった。ただ、華音さんの呼吸を近くに感じていた。

「あのさ……」 「あのね……」

 ボクらは同時に口を開いた。
「ん?なに?」
「さっきの聞いてたでしょ?でもさ私も最低。結局はタッチャンや奏ちゃんのコトを利用しようと思ってたんだもん私」
「ふざけんなよな」
「う、うん。ゴメンナサイ」
「謝んなって言ってんだよ。なんだよ!利用ってサ!」
「……ほんと……ゴメンナサイ……でも、謝るしかできない……」
「それが違うって言ってんだよ。ボクら友達だろ?離れていたって、しばらく会わないでいたって、ずっと友達だろ?利用するとかされるとか、そんなんじゃなく、自分にできるのとがあれば、してやるのが友達じゃないのかよ!」
「タッチャン……」
「カナはいつも何も言わずに自分だけで抱えこもうとするからダメだって言ってんだよ。引っ越す時だって結局何も言わずじまいだったし」
「ゴ、ゴメンナサイ」
「だから謝んなってーの」
「う、うん。ありがとう。やっぱタッチャン、昔から変わってないのね」
「カ、カナだって、変わって無いんじゃないか。根っ子の部分ではさ」
「わ、私は……どうかな……」

 歩いて行くと道は橋にさしかかった。川の向こうに落ちはじめた陽が、世界をオレンジに染めはじめた。そして、ボクは……いや、ふたりとも、つぎのひと言が見つからないでいた。

「ねえ、本当のコトを教えてくれよ」

 橋の真ん中あたりでボクは立ち止まって言った。
 華音さんも立ちどまり、ふりかえった。
 弱々しく僕の方を見つめている瞳にオレンジが射しこむ。

「嘘なんていらない。いつだってボクに、いやボクらに必要なのは真実だけなんだ」

 本当は友情だとか、信頼だとかは、わざわざ確認しあうもんじゃないのだろう。自分がどう思うか、どうしたいか、それだけなんだ。
 けれど、奏のためにも、いいや自分のために、本当のコトが知りたかった。

「そう……よね」

 しかし……

「えっ?」

 華音さんは無言のままボクに抱きついてきた。
 彼女の髪の毛が風に揺れ、ボクの手を撫でる。
 川向うのビルの影が足元まで伸びてくると
 華音さんがボクの背に腕を回した。
 彼女の体重を感じて、それを支えるようにボクも彼女の背に手をやった。
 するとフッとあたりが暗くなり、あっという間に夜が降りてきた。

「本当よ。これが本当に本当の気持ち……いつも、うまくは言えないけれど……」

 ボクはなんて言っていいのか分からずにいた。するとその時、遠くから奏が近づいてくるのが見えた。
 なぜだろう?ボクはひどく気が動転して、隠れたい気持ちでいっぱいになってしまった。
「分かってくれる?信じてくれる?私のこと」
 ボクの腕の中で華音さんがささやく。
「あ、ああ……うん。もちろん信じるよ」
 ボクは華音さんの顔を見ようと肩を押した。華音さんの頬に涙がつたうのが見える。すると
「ありがと」
 そう言って華音さんは駆け出していってしまった。

「華音さん……」
 ボクはその後ろ姿に向かって、とどかないであろう声でつぶやいた。

「本当の気持ち……ボクの本当の気持ちって何だろう?どこにあるのだろう?」



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